
紹介する各社は、私自身が実際に登録・利用したエージェントです。使用感は事実ベースで率直に記述しています。
※本記事の内容は、勤務医歴十数年の医師1名が4社のエージェントを同時利用した個人体験(N=1)に基づきます。読者の専門科・地域・希望条件・時期によって、求人傾向や交渉結果は変わり得ます。一つの参考事例としてお読みください。
勤務医歴十数年の現役医師が、医師転職で後悔しないための準備・希望条件の伝え方・代務交渉・オファー確認の進め方を、4社のエージェントを使った実体験ベースで解説します。

紹介する各社は、私自身が実際に登録・利用したエージェントです。使用感は事実ベースで率直に記述しています。
※本記事の内容は、勤務医歴十数年の医師1名が4社のエージェントを同時利用した個人体験(N=1)に基づきます。読者の専門科・地域・希望条件・時期によって、求人傾向や交渉結果は変わり得ます。一つの参考事例としてお読みください。
「医師の転職術」と聞くと、年収交渉のテクニックや求人票の細かい読み方が浮かぶかもしれません。私自身、転職を始める前はそういう「ノウハウ」を集めることが大事だと思っていました。
でも、実際に4社のエージェントを並行で使い、複数の病院と面談を重ね、最終的に納得のいく転職先に着地して気付いたのは、転職の成否を分けるのは**派手なテクニックではなく、地味な「準備」と「関係性の作り方」**だったということです。
この記事では、医師の転職で後悔しないための準備と進め方を、私自身の体験をベースに、以下の8つのフェーズに分けて整理します。
なお、エージェント4社の選び方・使い分けについては、別記事で詳しくまとめています。本記事と合わせてお読みいただくと、転職活動の全体像がつかみやすくなります(医師の転職エージェントおすすめ4社|現役医師の本音比較レビュー)。
転職活動を始める前に、絶対にやっておくべきことが一つあります。それは、自分にとって何が一番大事なのかを言語化しておくことです。
転職の希望条件は、ざっくり挙げるだけでも以下のように多岐にわたります。
これらすべてを満たす「完璧な求人」は、現実にはほぼ存在しません。何を最優先し、何を妥協できるかを自分の中でランク付けしておかないと、エージェントから提示された求人を前に判断軸が定まらず、結局「なんとなく良さそう」で決めてしまうことになります。
私の場合は、希望条件を以下の3グループに分けました。
このランク付けを最初にエージェントに伝えておくと、紹介される求人の精度が一気に上がります。逆に、これを曖昧にしたまま「とりあえず良さそうな求人を紹介してください」と頼むと、ノイズだらけのリストが返ってきて消耗します。
転職の準備は、新しい職場の選び方だけではありません。現職を気持ちよく辞められる状態にしておくことも、立派な準備です。
具体的には、
これらを転職活動と並行で進めておくと、最終的に内定が出たときに慌てずに退職の段取りに入れます。逆に、ここを後回しにすると、内定を受けた後で「実は引き継ぎができない」「退職時期がずらせない」となり、入職時期がずれて新しい病院に迷惑をかけることになります。
なお、医局所属の医師の場合は、退職時期を1年以上前に申し出る慣行が一般的です。医局の人事サイクルに合わせて伝えることで、退職時期の交渉自体が発生しないケースが多くなります。
退職フェーズの詳しい話は、本記事の後半(フェーズ7)でまとめます。
エージェントから紹介される求人票には、年収・勤務時間・当直頻度などの数字が並びます。これらを**「最大値」ではなく「平均値・実態値」で読む**癖をつけることが、後悔しない転職の第一歩です。
1. 年収レンジ
「年収◯万円〜◯万円」と幅で書かれている場合、ほとんどのケースで上限は「最大に近い当直・オンコール・残業をこなした場合」の金額です。求人票の上限額を「自分が普通に働いた時の年収」と考えると、入職後にギャップが出ます。
2. 当直・オンコール頻度
「月◯回程度」と書かれていても、実態は欠員や繁忙期で増えることがあります。求人票の数字は「定常時の最低ライン」と考え、面接や代務で実態を確認するのが現実的です。
3. 固定残業時間
求人票に「固定残業時間」が決められている求人の場合、実際にはその残業時間を超えて働くことが多いという話を、業界関係者から聞いたことがあります。私自身は固定残業の求人を選ばなかったため直接の体験はありませんが、求人票上の「固定残業◯時間込み」は、最低ラインの想定であって上限ではない、という前提で見ておくと安全です。
4. 患者数・診療科の業務量
「外来◯人/日」「病棟◯床」などの数字も、「いつの時期の数字か」「医師何人で回しているか」が分からないと意味を持ちません。エージェントに「この数字は何を分母にした数字ですか」を聞くと、解像度が上がります。
求人票だけで判断するのは危険です。私は、求人票をエージェントとの会話の取っ掛かりとして扱い、必ず以下のステップを踏みました。
この4ステップを踏むと、求人票の数字に振り回されずに済みます。
医師転職の「年収交渉術」を扱う記事はネットに多くあります。ですが、私自身の経験では、面接の場で年収交渉をする機会は実はほとんどありませんでした。
理由はシンプルで、希望年収は面接の前に、エージェントとの最初の打ち合わせで先方(病院側)に伝えてもらっていたからです。
なお、私の希望年収レンジが市場価格と大きく乖離していなかったことも、面接で交渉が発生しなかった一因と考えています。市場価格より明らかに高い希望を出す場合は、面接段階での再交渉が発生し得る点はご留意ください。
私の場合、4社のエージェントそれぞれに、最初の打ち合わせで以下を伝えました。
エージェントは、これらの情報を踏まえて求人を選別し、病院側にも事前に伝えてくれます。面接に進む段階では、すでに病院側はこちらの希望年収を承知しているため、面接の場で「もっと高くしてください」という直接的な交渉は、よほど条件が変わる場合以外、ほとんど発生しません。
医師転職エージェントの上手い使い方は、面接の場で交渉しなくて済むように、事前にエージェント経由で条件を擦り合わせておくことだと私は思います。
これには副次的な効果もあります。面接の場で「この人はいくらで来てくれるか」という金銭交渉に時間を使わずに済むため、面接の時間を**「自分とこの病院は合うか」「医療観・診療スタイルは合うか」**という本質的な対話に使えます。
逆に、面接当日になって希望年収を初めて切り出すと、病院側は「条件提示前に話が違う」と感じて関係性が悪くなることもあるそうです。エージェント経由で先に整理しておくのは、双方にとって効率的な進め方です。
エージェントに希望条件を伝える時のコツは、
これだけで、エージェントから提示される求人の質が変わります。
面接の場では、ホームページや求人票では分からない情報を直接聞き出すことに集中します。私が必ず確認していた項目は、以下の4つです。
「年収◯万円」の内訳を必ず確認します。
内訳が分かると、「当直を減らしたら年収はどう下がるか」が試算できます。
求人票の数字と現場の実態が乖離していないか、面接で必ず確認します。
これは重要な指標です。
離職率の高い職場には、必ず理由があります。「そういう情報はちょっと……」と濁される場合は、別の角度から(看護師さんの平均勤続年数を聞く、コメディカルの構成を聞く、など)情報を集めます。
これは私が特に重視した項目です。「常勤決定の前に、代務として入らせてもらえないか」を面接の場で切り出しました。詳しくは次の第5部で書きます。
私の場合、面接の場で「常勤として決める前に、まず代務で入らせていただけませんか」と切り出しました。エージェントの反応は「病院に聞いてみます」というシンプルなもので、病院側も特に難色を示すことなく受け入れてくれました。追加交渉も発生しませんでした。
意外と思われるかもしれませんが、医師転職の現場では、代務(非常勤・スポット勤務)からの常勤化は珍しくありません。病院側にとっても、「いきなり常勤契約を結ぶより、外部から来る医師がどんな働き方をするか事前に確認できる」というメリットがあるからです。
ここが、本記事で最も伝えたい部分です。
代務交渉がスムーズに通った背景には、自分の都合だけでなく、相手にとって自分は利益をもたらせる人かどうかを意識していたことがあると思います。
転職は「自分が選ぶ」だけのゲームではありません。「相手から選ばれる」ゲームでもあるのです。
病院側からすれば、医師の採用は大きな投資です。
病院側はこのリスクを最小化するために、採用にあたって協調性・継続性・患者対応の安定性を重視します。臨床能力はもちろん前提条件ですが、それと同等以上に「この人と一緒に長く働けるか」「スタッフ・患者さんとの関係を壊さないか」が見られています。だから、病院側は『この人は本当に利益をもたらせる人か』を見極めようとします。
代務という形態が双方にとって理にかなっているのは、まさにこの「お互いに見極める時間」を作れるからです。
代務として入った数日〜数週間で、こちらが示せる「利益をもたらせる人である証拠」は、たとえば以下のようなものです。
医師としての臨床能力はもちろん前提条件ですが、「能力があるが扱いにくい人」より「能力もそこそこあって、一緒に働きやすい人」が好まれるのは、どの業界でも同じです。
代務は、こちらが病院を見極めると同時に、病院がこちらを見極める場でもあります。だからこそ、代務の期間中は「内定をもらった後の油断モード」ではなく「面接の延長戦」というつもりで臨むことが、結果的にスムーズな常勤化につながります。
私の場合、代務として入った後、以下の流れで常勤に移行しました。
追加の交渉はありませんでした。それは、最初の希望条件をエージェント経由で擦り合わせ、代務期間中もお互いに「この条件で問題ない」と確認できていたからだと思います。
「特別な交渉術」は必要なかった。ただ、準備と、相手目線の振る舞いがあっただけです。
医師転職では、一般企業のような「オファーレター」が郵送されてくることはあまりありません。代わりに、条件はエージェント経由で口頭または書面で順次伝えられ、最終的に病院から**雇用契約書(または労働条件通知書)**として提示されるのが一般的です。
入職を受けるか辞退するかを決めるのも、その都度エージェントに伝えるか、自分で病院に断りの連絡を入れる流れになります。
代務を経て常勤契約の話が進んできた段階で、エージェントから提示される条件と、病院が用意する雇用契約書を必ず突き合わせて確認してください。私が必ず確認していた項目は、以下の4つです。
§5でも触れた通り、「年収◯万円」だけでなく、その内訳を契約書レベルで確認します。
口頭での合意が、契約書に正しく落とし込まれているかは、必ず確認してください。
医師は労働時間の例外規定が多い職種ですが、契約書に何が書かれているかは押さえておくべきです。
意外と見落としがちなのが、退職時の条件です。
入職時には「すぐ辞めるつもりはない」と思っていても、人生何があるか分かりません。退職時の条件を入る前に確認しておくのは、自分を守るための準備です。
これも、医師にとっては重要な項目です。
副業可否は、入職後の働き方の自由度に直結します。曖昧なまま入職すると、後でトラブルになりやすい項目です。
面接や事前のすり合わせで合意した内容(年収、勤務時間、当直回数、副業可否など)は、必ず雇用契約書または労働条件通知書に明記してもらいます。
「人事担当の方は『大丈夫です』と言っていたのに、契約書には書かれていない」というケースは、医療業界に限らず転職全般でよくあるトラブルです。**「書かれていないことは、合意していないのと同じ」**くらいの感覚で、抜けがないかチェックしてください。
エージェントは、この段階でも頼りになる存在です。「面接やエージェント経由で伝え聞いた条件が契約書に反映されているか確認したい」と相談すれば、エージェント経由で病院側に確認・追記の依頼ができます。
新しい職場が決まったら、現職を円満に辞める段取りに入ります。医師の世界は意外と狭く、前職での辞め方は新しい職場にも伝わることがあります。だからこそ、辞め方も準備のうちなのです。
これら3つを満たした段階で、上司に退職を切り出すのが現実的です。
医師は人材不足の職場が多いため、退職を切り出すと引き止めにあうことがあります。引き止めの内容は以下のようなパターンです。
ここで揺らがないためにも、転職を決断した時点で「なぜ転職するのか」を自分の中で言語化しておくことが大事です。条件が変わっただけで悩みが解決しない場合がほとんどなので、軸がぶれないよう注意してください。
退職を伝えた後の引き継ぎ期間こそ、医師としての評価が決まる時期だと私は思っています。
「辞めると決めたから手を抜く」という態度は、医師の世界では特にマイナスに評価されます。最後まで誠実に仕事をすることが、結果的に新しい職場での評判にもつながることを、忘れないでください。
退職前の有給休暇消化については、就業規則に従って計画的に進めます。引き継ぎとぶつからないよう、上司・人事と相談して日程を調整するのが基本です。
「有給を消化させてもらえない」というケースは、労働基準法違反に該当する場合があります。どうしても消化が難しい場合は、買い取り対応の有無を確認するなど、柔軟に対応してください(年次有給休暇の買い取りは原則として労働基準法上認められていませんが、退職時の未消化分に限り、買い取りが認められる場合があります)。
新しい職場に入って最初の3ヶ月は、**「自分のやり方を持ち込む時期」ではなく「相手のやり方を学ぶ時期」**です。
前職でどれだけ実績があっても、新しい職場には新しい職場のルール・文化・人間関係があります。それを尊重せずに「前の病院ではこうしていた」と言い続けると、すぐに浮いてしまいます。
「ここはこうした方が効率的なのでは」と感じることがあっても、最初の3ヶ月は改善提案を控えるのがコツです。
理由は2つ。
3ヶ月経って、現場の事情が見えてきて、信頼関係も築けてきた段階で初めて、改善提案が建設的に受け止められるようになります。
§5で書いた「相手に利益をもたらせる人」という視点は、入職後も継続して大事です。
これらを地道に積み重ねることが、結果的に自分のやりたいように働ける環境を作ります。私自身、「やりたいようにやらせてもらえている」のは、入職後の関係構築を地道にやってきた結果だと感じています。
最後に、本記事の要点を8つの原則にまとめます。
本記事は「後悔しないための準備と進め方」をまとめましたが、逆の視点 ——「医師転職でよくある失敗パターン」を知っておくと、より安全に転職活動を進められます。
ここでは、医師転職で一般的に語られる代表的な失敗パターンを5つだけ挙げておきます。
求人票の年収上限額を「自分の年収」と勘違いして決めてしまう 求人票の年収上限は「最大限の当直・オンコール・残業をこなした場合」の数字であることが多いです。普通に働いた場合の年収と比較してから判断してください。
代務(スポット勤務)を経ずに常勤契約を即決する 求人票・面接情報だけで判断すると、入職後に「現場の実態と聞いていた話が違う」とギャップに気付くケースがあります。可能であれば代務で実態を見るのが安全策です。
雇用契約書・労働条件通知書を読み込まずにサインする 口頭の合意がそのまま契約書に反映されているとは限りません。給与内訳・勤務時間・退職時条件・副業可否の4項目は、必ず文面で確認してから署名してください。
エージェントに「希望条件」を曖昧に伝えて消耗する 「年収高めで、勤務環境が良いところ」のように曖昧に伝えると、ノイズの多い求人リストが返ってきて時間を消費します。数字と優先順位を明示するのが結果的に効率的です。
退職交渉を後回しにして入職時期がずれる 内定が出てから慌てて退職交渉に入ると、引き継ぎや有給消化が間に合わず、新しい病院の入職時期がずれることがあります。退職段取りは転職活動と並行で進めるのが望ましいです。